CPER Textbook · Framework

CPER 教科書

複利調整型株価収益率(Compound Price-Earnings Ratio)の理論と実践
CPER = PER ÷ (1 + g)n
考案 上間喜壽 · v1.0 · 2026-05
Executive Summary
TL;DR — 30秒でわかる CPER
Core Thesis
PER は「今」だけ見る単眼レンズ。CPER は 複利成長で n 年先までフォーカスを伸ばせる望遠レンズ。 Peter Lynch の PEG が成長率で線形に補正するのに対し、CPER は 指数(複利)で補正する。 これにより、ハイパーグロース株の「割高/割安」を、投資家の時間軸(n)に応じて再評価できる。
P/(E·(1+g)n)
CPER の数式
<3 / 3-7 / 7-15 / >15
割安/適正/やや割高/割高
n
最強のレバレッジ
逆張り
活用パターン
Chapter I · Foundation
第1章: PER の本質と限界

PER(株価収益率)とは何か

PER とは PER = 株価 ÷ EPS(1株あたり利益) で表される、最も基本的な株価評価指標です。「その株を今の利益で何年かけて元が取れるか」を表します。

Metaphor
たい焼き屋さんの買収
近所のたい焼き屋を 1,000 万円で買うとします。年間 100 万円の利益を生むなら、10年で元が取れる = PER 10倍。年間 50 万円なら20年、20 万円なら50年。シンプル。

PER の致命的な弱点

PER は 「今年の利益」だけを評価軸にする ため、急成長企業を不当に「割高」と判定してしまいます。

店舗店の値段今年の利益PER5年後の利益本当の魅力
A店(老舗)1,000万円100万円10倍100万円普通
B店(新店、行列)1,000万円20万円50倍320万円(+1500%)圧倒的

PER だけ見ると A店 が「圧勝」(10倍 vs 50倍)。しかし、B店 は5年後に A店の3倍稼ぐ 会社です。PER は未来を無視するから、こうした判定ミスを起こす — これが CPER 設計の出発点。

第2章: 成長率と複利のメカニズム

成長率 g とは「銀行の金利」と同じ

100万円を金利5%の銀行に預けると1年後 105万円。これが 成長率 5% と同じ意味。数式: 来年の値 = 今年の値 × (1 + g)

単利と複利の決定的な差

毎年同じ金額が増えるのが 単利。「増えた後の金額」に成長率がかかるのが 複利。複利は雪だるま式に大きくなります。

単利(毎年+40万円)複利(前年×1.4)
0年目100万円100万円
3年目220万円274万円+54万
5年目300万円538万円+238万
10年目500万円2,893万円+2,393万

5年で約 1.8倍、10年で約 5.8倍の差。これが 複利の魔法

数式の意味

n年後の利益 = 今の利益 × (1 + g) × (1 + g) × ... × (1 + g)   ← n回かける
            = 今の利益 × (1 + g)n

(1+g)n は「n年後に利益が何倍になるか」を表す 雪だるまの最終サイズ。これが CPER の分母の核心です。

第3章: PEG — 線形評価の限界

Peter Lynch の発明

1989年、伝説的ファンドマネージャー Peter Lynch は『One Up on Wall Street』で、こう提案しました:

「成長してる会社の PER が高いのは当たり前。PER を成長率で割って評価すべきだ。」

これが PEG レシオ: PEG = PER ÷ 成長率(%)

PEG値判定
< 1割安
1 - 2適正
> 2割高

PEG の弱点: 「1回しか割引かない」

PEG は成長率を「線形で1回だけ」割引く。複利成長を無視する。成長率が 40% の会社が5年継続するなら、利益は 5.4倍 になるはず。なのに PEG はそれを評価しない

PEG は成長率が 2倍 → 評価も 2倍。CPER は成長率が 2倍 → 評価が 6〜10倍。これが 線形 vs 指数 の違い。

Chapter II · CPER Definition
第4章: CPER の定義と直感

正式定義

CPER = PER / (1 + g)n
     = (株価 / 現在EPS) / (1 + g)n
     = 株価 / [現在EPS × (1 + g)n]
     = 株価 / 将来EPS

数学的に等価な表現

CPER は、本質的には 「n年フォワード PER」 と等価です。つまり「n年後の予想EPSをベースにしたPER」。違いは:

判定基準

CPER値判定意味
< 3★ 強い割安n年後の利益で見ると元が3年で取れる
3 - 7◎ 適正合理的な評価水準
7 - 15△ やや割高成長持続が前提なら許容
> 15× 割高ナラティブ・プレミアム超過
第5章: 4変数の解剖

CPER は4つの変数からなる:

記号名前意味数式での位置
P株価(Price)マーケットでの値段分子
EEPS(1株あたり利益)企業が稼ぐ力分母(PER内)
g成長率(growth)EPSが毎年何%増えるか分母の指数の中
n年数(years)何年先を評価するか分母の指数

誰が動かす変数か

変数動かすのは誰か投資家の制御
Pマーケット全体× できない
E企業業績× できない
gアナリストコンセンサス× できない
n自分(投資家)○ 唯一コントロール可能

重要な洞察

4変数のうち、投資家が動かせるのは n だけ。そして次章で見るように、n は4変数の中で最もレバレッジが大きい
「投資家の最大の武器は、忍耐の長さ」 ということが数学的に証明される。

第6章: 各変数の感度(レバレッジ)

基準値(ALAB現状: P=$325, E=$3.00, g=52%, n=5, CPER=13.52)から各変数が10%動いた時の CPER 変化率:

P +10%
+10.0%
E +10%
-9.1%
g +10pp
-21.5%
n +1年
-34.2%

レバレッジ序列

  1. n(年数)が最強 — 投資家の忍耐が1年延びるだけで、評価倍率は 1/(1+g) になる
  2. g(成長率)も強力 — 線形効果の n倍に増幅される
  3. P(株価)は1:1 — マーケットボラに対し直接
  4. E(EPS)も1:1 — 業績連動に対し直接

注意: g と n の組合せが暴力的

g と n は両方とも指数の中にいる。g が 10pp 上がり、かつ n が 1 年伸びるだけで、CPER は 半分以下 になる。逆も真。これが「強気→弱気」の局面で株価が乱高下する正体。

第7章: n は「投資家の忍耐」

n は表面的には「年数」だが、実質的には 「自分が何年待てるか」のダイヤル です。

投資家タイプ適正 n同じ ALAB の見え方
デイトレーダー0-1PER 108 そのまま、狂気
スイング/モメンタム1-2CPER 50-80、明確に割高
中期投資家3-5CPER 14-33、判断が分かれる
長期投資家(Buffett型)7-10CPER 4-10、適正〜割安
終身保有15-20CPER 0.3-2、笑える割安

マーケット心理の正体

ALAB が一日で 10% 動くのは、ファンダメンタルではなく、市場参加者の「平均 n」が日々動いているから:

業績は1ミリも変わらないのに、参加者の n だけで株価が30%動く。

第8章: 上昇/下落のメカニズム

CPER が上昇(割高化)するトリガー

変数方向現実世界のトリガー
P決算ビート、業界テーマ買い、空売り買戻し、FOMO
E粗利率圧迫、希薄化、為替逆風、一時的損失
gガイダンス下振れ、顧客減速、競合の台頭、コンセンサス改定
n金利上昇、リセッション懸念、ナラティブ揺らぎ

CPER が下落(割安化)するトリガー

変数方向現実世界のトリガー
P決算ミス、マクロパニック、利益確定
E利益率改善、自社株買い、コスト削減
g新規大口顧客、TAM拡張、コンセンサス上方修正
n金利低下、ナラティブ強化、長期ビジョン浸透

連鎖反応 — 単独で動くことはない

悪い決算が出た時の連鎖(ALAB想定)

P: -20%  → CPER ×1.20(割高化)
E: -15%  → CPER ×1.18
g: 52%→35% → CPER ×1.77
n: 5→3   → CPER ×1.82

複合: ×3.04
CPER 13.5 → 約 41 へ急騰(割高度が3倍に)

良い決算が出た時の連鎖

P: +30%  → CPER ×1.30
E: +10%  → CPER ×0.91
g: 52%→65% → CPER ×0.65
n: 5→7   → CPER ×0.37

複合: ×0.28
CPER 13.5 → 約 3.8 へ急落(適正ゾーン突入)
Chapter III · Interactive Tools
第9章: CPER シミュレータ

自分で4変数を動かして、CPER の挙動を体感してください。

PER(株価収益率)
PEG
複利倍率 (1+g)n
n年後の予想EPS
CPER(複利調整型PER)
フォワードPER (n年)
判定
第10章: 感度ヒートマップ(g × n)

現在のシミュレータ入力(P, E)を固定し、g と n を変化させた時の CPER をヒートマップで表示。シミュレータの値を変えると自動更新します。

★ 強い割安 (<3) ◎ 適正 (3-7) △ やや割高 (7-15) × 割高 (15-30) ×× バブル (>30)
第11章: 実銘柄スクリーナー(2026年5月末時点)

主要 AI/半導体・ビッグテック銘柄の実データ。列ヘッダをクリックでソート。

Tickerカテゴリ 株価 ($) FY26E EPS PER g (%) PEG CPER(3) CPER(5) 判定 (n=5)
Chapter IV · Case Study
第12章: ALAB ケーススタディ

2026年3月 — イラン戦争パニック時の購入

2026年3月、イラン戦争に伴う米株急落時、ALAB を $100 で買い集めた事例。当時のファンダメンタル:

項目
株価 P$100
FY26E EPS(当時のコンセンサス)$2.46
g_blend(当時)+37.8%
PER40.7x

当時の CPER(n別)

n(1+g)nCPER判定
3年2.6215.54△やや割高(境界)
5年4.978.18△→◎境界
7年9.444.30◎適正
10年24.861.64★割安

パフォーマンス分解($100 → $343 = +243%)

要因購入時 → 現在寄与
EPS 改定$2.46 → $3.00+22%(業績寄与)
成長率 g 改定37.8% → 52%+14pp 上方修正
PER 拡大40.7x → 114.3x+181%(マルチプル寄与)

判断の本質

マクロパニックでマーケットの n が縮んだ瞬間に、自分の n を変えなかった — これがすべて。 イラン戦争で ALAB の Scorpio X design win は1個も消えない。 ファンダメンタルが無傷なのに価格だけ下がっていた = CPER(n=5) 8.18 という「許容範囲」のシグナル。 これを長期 n=7 のレンズで見れば「適正」、n=10 なら「強い割安」だった。

Chapter V · Philosophy
第13章: 投資哲学への含意

「n のアービトラージ」

マーケットの平均 n は日々変動する。自分の n を一定に保てるなら、「他人の n が縮んだ瞬間の割安価格」 を機械的に拾える。これが CPER から導かれる投資哲学:

Core Doctrine
投資の本質は 「他人が n=2 でパニック売りしている時に、自分が n=10 で買えるか」
忍耐の差を利益に変換する作業。

実装ルール(提案)

  1. 自分の n を先に宣言する(「私はこの銘柄を5年は持てる」)
  2. その n で全銘柄を計算する(一貫性)
  3. 「適正」ゾーンに来た銘柄から選ぶ
  4. 途中で n を変えない(自己正当化のNG)
  5. CPER しきい値で利確(例: 購入時の2倍を超えたら部分利確)

NGパターン

第14章: 先行研究と CPER のオリジナリティ

調査結果サマリー

CPER の数式 PER ÷ (1+g)n を「指標」として明示的に命名・流通させている先行研究は確認できなかった。 ただし概念的・数学的にほぼ同一の議論は複数存在する。

最も近い先行研究

研究者/出典距離内容
Kevin Zatloukal (Medium)2024★★★「earnings grow by (1+G)n factor」と CPER の発想を明示展開。ただし最終形は PE − 100G という線形近似に丸めて提案
David P. Addis (SSRN #2138483)2012★★★"Growth Adjusted Price to Earnings Ratio and Implied Growth Rate" — タイトル・問題意識が最も近い学術論文
Aswath Damodaran (NYU Stern)★★2段階 DDM から PEG を理論導出。指数成長を扱うが PEG として線形化
Murugesan (SSRN)★★"Why PEG Based DCF Valuation is Flawed" — 線形 PEG の批判
Sam Rainsy (SSRN)★★"PEG or PPP" — 複利を扱う代替指標 Potential Payback Period を提案

重要発見: CPER ≡ n年 Forward PE(数学的等価)

数式的には Forward PE と等価

Forward PEn = Price / EPSn
                = Price / (EPS0 × (1+g)n)
                = (Price / EPS0) / (1+g)n
                = 現在PE / (1+g)n
                = CPER

つまり CPER は 「g を一定と仮定したときの n 年先 Forward PE」 と完全に同一。
Wall Street Prep, Stock Analysis 等の Forward PE 解説でも暗黙に示されている関係。

CPER のオリジナリティはどこにあるか

  1. 数式の新規性: ほぼゼロ — Forward PE と等価、Zatloukal/Addis に先行例
  2. 命名と「単一スカラー指標」化: 新規性あり — PEG と Forward PE の橋渡しを言語化
  3. g を明示パラメータとして外出しする設計 — アナリスト EPS 推定に隠れていた成長率を見える化。感度分析・シナリオ分析と相性が良い
  4. 判定しきい値(<3/3-7/7-15/>15)の提示 — 実務での意思決定基準として整理

線形 PEG への批判は学術界で確立済み

「PER と g の関係は線形ではない、PEG は単純化しすぎ」という議論は、CFA Institute, Damodaran, Guinness Global Investors 等いずれも明記。「指数版 PEG」を明示式で提案している論文は確認できず — Zatloukal が最も近いが、彼は実用上線形近似に戻している。

位置付け(結論)

CPER の真の貢献

「PEG の指数版」「Forward PE の g 明示版」という位置付けの提示と、判定基準の言語化が CPER の独自性。 数式の発明ではなく、「忘れ去られていた指数版」を実務に呼び戻し、シミュレーション可能な形に整理した点に価値がある。

引用 Sources

Appendix
付録: 数式と派生

CPER の基本式

CPER = PER ÷ (1 + g)n

各派生式

PER = P / E
(1+g)n = 複利倍率
将来EPS = E × (1+g)n
フォワードPER(n) = P / 将来EPS
CPER = P / [E × (1+g)n] = フォワードPER(n)

感度(偏微分の直感)

∂CPER/∂P =  1/[E × (1+g)n]       → Pに線形、+1%でCPER+1%
∂CPER/∂E = -P/[E² × (1+g)n]      → Eに逆比例、+1%でCPER-1%
∂CPER/∂g = -n × CPER/(1+g)         → gのレバレッジは n/(1+g)
∂CPER/∂n = -CPER × ln(1+g)         → n を 1延ばすと CPER × 1/(1+g)

PEG との関係

PEG  = PER ÷ (g × 100)            # 線形除算
CPER = PER ÷ (1+g)n              # 複利除算

g = 0 のとき: CPER = PER(複利なし)
g > 0 のとき: CPER < PER(評価緩和)
n = 1 のとき: CPER ≈ Forward PER
n → ∞ のとき: CPER → 0(無限の忍耐は無限の割安)

判定しきい値の根拠

S&P500 の歴史的平均 PER 約16倍を「適正の上限」と仮定すると、5年後の同等評価 = CPER 16 / (1.10)5 = 約10。 そこから「ゆとり」を持たせて 7 を「適正の上限」とし、その半分の 3 を「明確な割安」とした。